水南 森
朱の鳥居を潜りながら、老人が言った。
弁財天は、水のそばにばかりある。
あら、そうですか。
老婦人が答える。その横を、少年がすり抜
けて洞窟に入って行った。
厳島も、銭洗弁天様も。ほらっ、足元に気
をつけなさい。
老人が手を引いて、二人も洞窟に入った。
弁天窟の中は、供えられた多くの蝋燭で照
らされている。さっきの少年の姿はない。二
人だけだ。
供えてみるか。
いまさら、何の願い事もありませんよ。
二人は手をつないで、歩いていく。
十六童子、数えてみようか。
壁面には、童子の姿が刻まれている。
やめてください。一人足りない、とか言っ
て、私を怖がらせるんでしょう。
岩肌の窪みに、親指ほどの木彫りの弁天像
があった。さらに奥深く進むと、小さな弁天
像が六つ、八つと増えていく。
おい、弁天様に囲まれたみたいだぞ。
見渡すと、四方の壁に弁天像がびっしり置
かれている。
行きましょう。
老婦人が手を引いて、二人はさらに奥へと
進んだ。
二人の足が止まった。
少年がいた。両手を合わせて拝んでいる。
壁だけではなく、地面にも足の踏み場を残し
て弁天像が敷きつめられていた。その中央に
少年は立っている。
少年は走り去った。
二人は洞窟を出た。
拡がる池にそって歩くと、向こうには弁天
堂がある。
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